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アルミダイカスト合金の正しい選定方法と後工程への影響

アルミダイカスト合金の正しい選定方法と後工程への影響| JoinCast

合金選定が製品の成否を分ける理由(はじめに)

製品開発において、使用するアルミ合金の選定が十分な検討のないまま決定されてしまうケースは少なくありません。「A380」や「ADC12」と指定された図面が届いても、その材質を選んだ本来の技術的根拠は曖昧になりがちで、結果として「サプライヤーが日頃から最も多く鋳造している材質」がそのまま採用される仕様となりがちです。この手法は、製品がその性能限界に直面するまでは問題なく機能しているように見えます。

しかし、合金の選定が決定づける要素は、材料費用だけに留まりません。実際、材料費用は全体の構成要素の中で最も影響の小さい要因の一つに過ぎないのです。合金の選定は、複雑な形状の金型に対して金属がいかに綺麗に行き渡るかをはじめ、どのような表面処理が対応可能か、後工程での切削加工時にどのような挙動を示すか、そして製品が実際の環境で使用される際の長期的な信頼性にまで直接影響を及ぼします。製品仕様策定の初期段階で正しい合金を選定することは、後工程での手戻り費用を抑え、製造歩留まりを向上させることに直結します。結果として、材料単価の安さだけで判断するよりも、部品1点あたりの総製造費用を遥かに低く抑えることが可能になります。

本ガイドでは、ダイカスト部品の設計において最も広く指定される5つの主要アルミ合金(A380、A383/ADC12、A360、B390、A413)について解説します。なお、本稿に記載されている特性データは、すべてNADCA(北美圧鋳協会)の2021年版製品仕様標準(Product Specification Standards)に基づいています。


5つの主要アルミ合金とその強み(特性)

A380:総合性能と量産実績の標準合金

A380 は北米で最も広く指定されているダイカスト用アルミ合金であり、その高い普及率には確固たる技術的根拠があります。NADCA(北美圧鋳協会)の2021年版データによると、その化学成分はシリコン(珪素)7.5〜9.5%、銅(Cu)3.0〜4.0%を含有し、鉄(Fe)の最大値は 1.3% に抑えられています。鋳放し(熱処理を行わない製造直後)の状態において、引張強さは 324 MPa、耐力(降伏強さ)は 159 MPa、伸びは 3.5% を示します。

本合金の最大の魅力は、「諸特性の優れたバランス」にあります。NADCA の評価基準において、金型への充填性は「レベル2(最高評価はレベル1)」を記録しており、複雑な製品形状であっても極めて安定した鋳造が可能です。さらに、金型への溶着を防止する耐焼付き性、および電気めっき処理の施工性においては、ともに最高評価の「レベル1」を獲得しています。このため、めっきによる表面仕上げが要求される外観意匠部品において、非常に有力な選択肢となります。また、切削加工性の評価は「レベル3」であり、アルミ合金群の中では平均以上の優れた加工容易性を備えています。

主要な制限事項としては、「耐食性の低さ」が挙げられ、評価は「レベル4(レベル5が最低)」にとどまります。これは合金内に含まれる銅成分に直接起因するものです。銅は強度と切削加工性を向上させる一方で、塩水噴霧や高湿度環境に対する耐性を低下させる性質があります。したがって、屋外配置や持続的な高湿度環境で使用されるA380部品において、長期的な耐久性を確保するためには、防錆塗装や化成処理といった保護目的の表面処理が推奨されます。

 

A383 / ADC12:薄肉・精密形状を可能にする高流動性合金

A383は米国規格(ANSI/AA)の表記であり、多くのアジアの鋳造現場では日本産業規格(JIS規格)に準拠したADC12として広く知られています。両者は極めて近い関係にありますが、完全に同一ではありません。JIS規格の ADC12 では鉄(Fe)や亜鉛(Zn)の許容上限値がわずかに異なる一方、NADCA規格のA383では銅(Cu)2.0〜3.0%、シリコン(珪素)9.5〜11.5%、マグネシウム(Mg)最大0.10%と化学成分が規定されています。

機械的性質の観点において、NADCAは A380、A383、A384 を実質的に相互置換可能な材質として扱っています。A383 の引張強さ310 MPa、耐力152 MPa という数値は、A380 に比べてわずかに下回るものの、その差異は極めて微小であり、大半の製品用途において設計上の影響はありません。

本合金が真の優位性を発揮するのは、機械的強度ではなく「卓越した鋳造性」にあります。金型内への充填性において最高評価である「レベル1」を獲得しており、これはシリコン含有量が高いことで溶融金属の流動性が大幅に向上しているためです。実務レベルにおいては、複雑な精密形状や肉厚 2.0mm 以下の薄肉形状に対して、A380 よりもより高い充填信頼性を確保できることを意味します。さらに、銅の含有量が抑えられているため、耐食性(レベル3)および切削加工時の扱いやすさ(被削性:レベル2)の双方において、A380 を上回る評価を得ています。

アジア圏(日本、台湾、中国など)から部品を調達する場合、ADC12 は実質的な「標準材質」となります。この地域におけるアルミダイカスト生産量の大部分を ADC12 が占めているため、サプライヤーの量産実績、製造工程の最適化、そして材料の市場流通性のあらゆる面において、アジア調達で最も有利な材質の選択肢となります。

 

A360:過酷な環境に耐える高耐食性・高熱伝導性合金

A360は、これまでに挙げた合金とは根本的に異なる化学成分を持っています。強度を高めるための主添加元素として、銅ではなくマグネシウム(0.4〜0.6%)を採用しており、耐食性を低下させる原因となる銅(Cu)の含有量は最大0.6%以下に厳格に抑制されています。この成分構成により優れた耐食性を実現しており、NADCAの5段階評価(1が最高評価)における耐食性評価は、A380の「レベル4」に対して「レベル2」と大幅に向上しています。

さらに、本合金は熱伝導性において非常に優れており、A380の96.2 W/mKに対して113 W/mKという高い熱伝導率を誇ります。LED照明の電源筐体やモーターのケースなど、内部で発生した熱を効率的に外部へ放熱しなければならない部品の設計において、この性能差は製品寿命に直結する重要な意味を持ちます。NADCAのデータにおいても、その優れた熱伝導性と放熱適性は、標準的なアルミ合金グループの中でトップクラスに位置付けられています。

しかし、これらの優れた特性(耐食性・放熱性)を得る代償となるのが「鋳造性の低下」です。A360の金型内への充填性評価は「レベル3」にとどまります。NADCAの解説でも、本合金は「高い耐食性と優れた延性を提供する一方で、鋳造難易度は高くなる」と明記されています。 融点が高く、湯流れが悪いため、金型設計(ゲート案や冷却配置)および製造工程の管理(温度・圧力制御)において非常に高度な技術力が要求されます。そのため、成形周期の短縮による量産効率や製造コストを最優先とする大量生産プロジェクトには、やや不向きな材質と言えます。

 

B390 / ADC14:摩耗を防ぎ、製品寿命を延ばす超高硬度合金

常時摩擦が発生する環境下で使用される部品を設計する場合、B390(日本産業規格 JISでは ADC14に相当)は極めて有力な選択肢となります。本合金はシリコン(珪素)含有量が16.0〜18.0%と、標準的なダイカスト用アルミ合金の中で最も高く、さらに 4.0〜5.0% の銅(Cu)が添加されています。この極めて高いシリコン含有量により、金属組織内部に硬質な「初晶シリコン結晶」が析出し、これが軸受材料のような役割を果たすため、一般的なA380の硬度が80 BHN(ブリネル硬さ)程度であるのに対し、B390は120BHNという圧倒的な高硬度を誇ります。NADCAのデータによると、元々は自動車のシリンダーブロック向けに開発された材質であり、現在は油圧バルブボディや鉄スリーブを廃止したピストンハウジングなどに広く採用されています。

しかし、この卓越した耐摩耗性を得る代償として、製造上の制約も非常に大きい点に留意する必要があります。延性は 1% 未満にまで低下するため、他のアルミ合金グループに比べて脆いという性質を持ちます。さらに、NADCAの5段階評価において、切削加工時の扱いやすさおよび研磨・バフ仕上げ品質の評価は、ともに最悪値の「レベル5」です。これは加工時に切削工具の摩耗が非常に激しくなることを意味し、後工程での加工費用が大幅に上昇する要因となります。また、凝固時の亀裂に対する耐性も低く(レベル4)、安定した品質で鋳造するにはサプライヤー側に極めて厳格な製造工程管理(温度・圧力制御)が要求されます。B390 は特定の高摩耗用途に特化した特殊な材質であり、「耐摩耗性の確保」が設計上の最優先課題である場合のみ、限定的に指定すべき合金です。

 

A413 / ADC1:内部欠陥を許さない高気密・耐圧性合金

内部に液体や気体を満たし、圧力がかかる環境下で使用される部品を設計する場合、A413(日本産業規格 JISではADC1に相当)が最適な選択肢となります。本合金はシリコン(珪素)を 11.0〜13.0%含有し、耐食性や湯流れに悪影響を与える銅(Cu)の含有量は最大1.0%以下に厳格に抑制されています。NADCAの5段階評価(1が最高評価)において、耐圧性(気密性)および凝固時の亀裂に対する耐性の双方で最高評価の「レベル1」を獲得しています。また、金型内への充填性も「レベル1」と極めて高いため、複雑な精密形状でありながら、実際の使用環境下で一切の漏れを許さない高気密部品の製造に最適です。具体的な用途としては、油圧シリンダー、流体マニホールド、圧力容器などが挙げられます。

さらに、本合金は熱伝導性においても非常に優れており、A380の96.2 W/mKに対して121 W/mKという極めて高い熱伝導率を誇ります。そのため、油圧機器や内部部品のように「耐圧気密性」を維持しつつ、同時に効率的な「放熱設計」も求められる過酷な製品設計において極めて高いパフォーマンスを発揮します。一方で、調達・設計上の制約となるのが、切削加工時の扱いやすさ(被削性:レベル4)および研磨・バフ仕上げ品質(レベル5)の低さです。これはシリコン含有量が高いアルミ合金に共通する特性であり、鋳造後に大規模な切削加工などが必要な設計や、美しく磨き上げられた装飾用の外観仕上げを求める製品では、後工程の加工費用が大幅に上昇する原因となります。しかし、外観の美しさよりも「圧力や流体を確実に閉じ込める」という機能性を最優先とする保安部品においては、現在選択できるアルミ合金の中で最も信頼性の高い、極めて卓越した選択肢となります。


最適なアルミ合金を選定するための総括

適切なアルミ合金の選定は、単に材料の単価だけで決まるものではありません。製品の肉厚や複雑さ、実際の使用環境(温度や湿度)、後工程で求められる表面処理仕様、そして製造・調達を行う地域の特性を総合的に勘案して決定する必要があります。以下に、製品設計および調達における意思決定の迅速化を図るため、NADCA(北美圧鋳協会)の最新特性評価に基づいた選定基準の要約を提示します。

A380 / ADC10:選定すべき具体的な判断基準

製品設計において、以下の条件に合致する場合は、A380(JIS相当:ADC10)の選定が最も適切であり、高い費用対効果を発揮します。

  • 用途が汎用部品であり、過酷な環境や腐食リスクに曝されない場合 塩水噴霧や高湿度環境といった特別な耐環境設計を必要としない、一般的な構造部品、電装品筐体、または屋内配置の産業機械部品などに最適です。
  • 電気メッキ処理仕上げが必須要件である場合 NADCA特性評価において、めっき施工の容易性は最高評価の「レベル1」を獲得しています。めっきによる金属光沢の付与(意匠性向上)や表面保護を前提とした製品設計において、最も確実な材質候補となります。
  • 製品形状に「極端な薄肉部」や「極めて微細・複雑な意匠」が含まれない場合 肉厚が十分に確保されており、一般的な湯流れで均一な充填が可能な形状であれば、本合金の持つ優れた鋳造性と機械的強度を最大限に活かすことができます。
  • 部品の製造拠点が北米または欧州市場である場合 現地規格における流通量が圧倒的に多いため、材料の調達が非常に容易であり、サプライヤー側の量産・金型実績も豊富なため、最も安定した供給体制を構築できます。

 

A383 / ADC12:選定すべき具体的な判断基準

製品設計において、以下の条件に合致する場合は、A383(JIS規格:ADC12)の選定が最も適切であり、アジア圏での製造において最大のメリットを享受できます。

  • 製品に「薄肉部」があり、内部構造が複雑、または微細な表面意匠が求められる場合 シリコン含有量が高く、金型内への充填性が最高評価の「レベル1」であるため、肉厚 2.0mm 以下の薄肉筐体や、複雑な冷却フィン、精密な電子機器ケースなどの成形に最適です。
  • 適切な表面処理を前提とした、中程度の耐食性で十分な場合 A380に比べて銅の含有量が抑えられているため、耐食性は「レベル3」とやや優れています。適切な防錆塗装や化成処理などの保護表面処理を組み合わせることで、実務上十分な耐久性を確保できます。
  • 鋳造後の追加工の割合が多い場合 切削加工時の扱いやすさが「レベル2」と優れており、アルミ合金グループの中でも工具の摩耗を抑え、加工時間を短縮できるため、加工手数の多い精密部品に適しています。
  • 部品の製造拠点が日本・台湾・中国などのアジア圏である場合 アジア市場におけるアルミダイカストの圧倒的な「標準材質」です。材料の市場流通性が極めて高く、現地のサプライヤーも量産・金型実績や製造工程の最適化ノウハウを豊富に蓄積しているため、最も低リスクかつ安定した調達が可能です。

 

A360 / ADC3:選定すべき具体的な判断基準

製品設計において、以下の条件に合致する場合は、A360(JIS規格:ADC3)の選定が最も適切であり、過酷な環境下でも優れた機能性を維持できます。

  • 製品が腐食リスクの高い環境(海洋環境、沿岸部、または高湿度環境)で使用される場合 銅の含有量を極限まで抑え、マグネシウムを添加しているため、耐食性は「レベル2」と極めて優秀です。塩水噴霧や水分に曝される屋外配置の通信機器や船舶用部品に最適です。
  • 効率的な放熱設計が製品の最優先要件である場合 熱伝導率が113 W/mKと非常に高く、標準的なA380(96.2 W/mK)を大きく上回ります。LED照明の電源筐体など、内部熱を効率的に外部へ放出させたい部品に適しています。
  • 製品が高温環境下で使用される場合 高温環境下における機械的強度の維持において、標準的なアルミ合金グループの中で最高評価となる「レベル1」を獲得しています。熱による変形や強度低下を嫌う自動車のエンジン周辺部品などに最適です。
  • 内部に液体や気体を満たし、漏れを防ぐ「耐圧気密性」が機能要件として求められる場合 鋳造時の凝固収縮による亀裂が発生しにくいため、鋳物組織が緻密に仕上がり、外部への漏れを防ぐ高い気密性を確保できます。

 

B390 / ADC14:選定すべき具体的な判断基準

製品設計において、以下の条件に合致する場合は、特殊な過共晶合金であるB390(JIS規格:ADC14)の指定を検討すべきであり、その卓越した硬度を最大限に活かすことができます。

  • 部品が「常時摩擦」や「激しい摩耗」に曝される環境で稼働する場合 エンジンのシリンダーブロック、油圧バルブボディ、燃料ポンプハウジングなど、金属同士が常に擦れ合う動作部の設計において、他のアルミ合金では真似できない圧倒的な耐摩耗性を発揮します。
  • 材料の「延性」や「加工のしやすさ」よりも、表面の「高硬度」を最優先する場合 一般的なA380の硬度が80 BHN程度であるのに対し、本合金は120 BHNという数値を誇ります。衝撃による割れリスク(延性1%未満の脆さ)を許容してでも、表面を傷つけたくない、変形させたくないという剛性重視の設計に適しています。
  • 調達先サプライヤーが「過共晶合金」の確かな量産・鋳造実績を有している場合 本合金は湯流れが悪く、凝固時のひび割れを起こしやすいため、極めて難易度の高い材質です。金型設計や温度・圧力制御のノウハウを「文書化された実績」として証明できる、技術力の高い選定サプライヤーでの製造が必須条件となります。
  • 後工程での「切削加工費用」の上昇や「工具寿命の短縮」を織り込み、総製造費用を検証済みな場合 組織内に硬質な初晶シリコンが分散しているため、切削工具の摩耗が非常に激しくなり、加工時間も長くなります。加工費用の予算枠をあらかじめ高く設定し、それでも「鉄スリーブ廃止による軽量化」などの設計メリットが勝ると判断できた場合にのみ指定すべき材質です。

 

A413 / ADC1:選定すべき具体的な判断基準

製品設計において、以下の条件に合致する場合は、高気密・耐圧性に特化したA413(JIS規格:ADC1)の指定が最適であり、過酷な流体制御環境でも絶対的な信頼性を確保できます。

  • 内部に液体や気体を満たし、高圧下で保持・制御(耐圧構造)する必要がある場合 油圧シリンダー、空気圧機器、流体マニホールド、または各種圧力容器など、内部からの圧力に対して金属組織の隙間から気体や液体が染み出す「リーク不具合」を絶対に許さない重要保安部品に最適です。
  • 「複雑な精密形状」と「高度な耐圧気密性」の双方が必須要件である場合 金型内への充填性と凝固時のひび割れ耐性がともに最高評価の「レベル1」です。肉厚の変化が激しく複雑な立体構造であっても、気孔(巣)の発生リスクを抑え、緻密で均一な組織を成形できます。
    •「耐圧性能」の維持と同時に、優れた「放熱設計」も同時に求められる場合 熱伝導率が121 W/mKと非常に高く、主要なダイカスト用アルミ合金の中でトップクラスの性能を誇ります。高圧の作動油によって内部熱が発生する油圧機器など、強度の維持と効率的な放熱を両立させたい設計において最大の強みを発揮します。
    • 製品の評価基準が「外観の美しさ」ではなく、「機能性・安全性の確保」である場合 シリコン含有量が高いため、鋳造後の研磨・バフ仕上げ品質は最悪値の「レベル5」、切削加工時の扱いやすさも「レベル4」にとどまります。装飾用の美しい外観仕上げには不向きですが、外観を重視しない構造・機能部品においては、現在選択できるアルミ合金の中で最も優れた耐圧性能を提供します。

合金選定の次なるステップ:グローバル調達と後工程への展開

適切なアルミ合金の選定は、製品開発プロジェクトにおける最初の関門を通過したに過ぎません。材質仕様が決定した後に直面する真の課題は、「地域を跨いだ正確な材料調達」です。なぜなら、同一の組成を持つアルミ合金であっても、各国の規格団体(JIS、ASTM、EN、BSなど)によってその名称や許容公差は異なり、さらに選定した合金の種類によって、その後の表面処理や熱処理といった後工程の技術的な限界値が確定してしまうからです。

海外調達における具体的な材料規格の対照方法や、後工程におけるリスク管理の要点については、本稿の姉妹記事である『【JIS/ASTM/EN対照】アルミダイカスト合金規格の地域別名称比較ガイド』にて包括的に解説しています。

JoinCastでは、製品の仕様策定段階(RFQ)からお客様のチームと緊密に連携し、選定されたアルミ合金が部品に必要な機械的性質を満たすだけでなく、その後の全ての製造工程「CNC精密切削加工」「表面処理(塗装・化成処理など)」「厳格な品質検査」に対して完全に最適化されているかを技術検証します。現在開発中の新部品プロジェクト、あるいは既存の材料仕様や海外規格図面の総合的な見直しがございましたら、実務レベルでの手戻りを未然に防ぐためにも、ぜひお気軽に当社の技術窓口までご相談・お問い合わせください。


FAQ

アルミダイカスト主要5合金の選定基準

アルミダイカストにおいて「万能な最高の一択」となる材料は存在しません。最適な合金の選定は、製品の立体形状、実際の使用環境、そして後工程(表面処理や切削加工)の要件によって完全に異なります。各合金の特徴を正しく把握し、設計要件の最優先課題に合わせて選定することが、製造歩留まりの向上と総製造費用の抑制につながります。以下に、世界的な業界標準であるNADCA(北美圧鋳協会)の最新データに基づく、主要5合金の最適な選定基準を総括します。

A380とA383/ADC12の違いとは?

A380とA383(アジア圏におけるADC12)は極めて近い関係にありますが、鋳造性と耐食性において明確な違いがあります。A380は銅(Cu)を3.0〜4.0%含有し、鋳放し状態での引張強さは324 MPaです。これに対し、A383は銅の含有量を2.0〜3.0%に抑える一方、シリコン(珪素)を9.5〜11.5%とわずかに高く設定しており、引張強さは310 MPaとなります。この「低銅・高シリコン」の成分構成により、A383はA380に比べて優れた金型充填性(NADCA評価:A380の「レベル2」に対して最高評価の「レベル1」)と、高い耐食性(A380の「レベル4」に対して「レベル3」)を備え、切削加工時の扱いやすさにも優れています。そのため、A383は薄肉形状や精密な微細構造を持つ部品における実質的な標準材質となっており、特にアジア圏のサプライヤーから部品を調達する場合の最適な選択肢となります。

最も耐食性に優れたダイカスト用アルミ合金はどれですか?

一般的なダイカスト用アルミ合金の中で、最も耐食性に優れているのはA360(JIS相当:ADC3)です。NADCAの5段階評価(数値が低いほど優秀)において、汎用材であるA380の評価が「レベル4」であるのに対し、A360は「レベル2」という高い耐食性を誇ります。この優れた耐食性は、合金の成分構成に由来します。A360は、塩水噴霧や水分に対する耐性を低下させる原因となる銅(Cu)の含有量を最大0.6%以下に厳格に抑制しています。その代わりに、強度を高めるための主添加元素としてマグネシウム(0.4〜0.6%)を採用しているのが特徴です。さらに、本合金は113 W/mKという高い熱伝導率を併せ持っているため、船舶用部品、屋外配置の通信機器筐体、および効率的な熱管理が必要な放熱ケース(LED照明やモーター周辺部品など)の設計に極めて適しています。ただし、優れた耐環境性と放熱性を得られる代償として、他の標準合金に比べて鋳造難易度が高くなるという点に留意する必要があります。

なぜ銅(Cu)の含有量が増えると、アルミ合金の耐食性が低下するのですか?

銅(Cu)はアルミ合金の機械的強度や切削加工性を劇的に向上させる極めて重要な元素ですが、その代償として塩水噴霧や水分に対する耐性を著しく低下させるという性質を持っています。これが、高濃度の銅(3.0〜4.0%)を含有する汎用材A380が、NADCAの耐食性評価において5段階中「レベル4」という低い評価にとどまる決定的な理由です。技術的なメカニズムとして、アルミニウムの基質中に銅が添加されると、金属組織の内部でアルミと銅の間に微小な電位差が生じ、水分を媒介として「異種金属接触腐食」に類似した局所電池が形成されます。これにより、本来アルミニウムが持つ強固な自己修復性の酸化被膜の破壊が促進され、塩水や湿気に対して非常に脆くなります。そのため、銅を含有する合金を屋外環境や高湿度環境といった過酷な条件下で長期間使用する場合、防錆塗装や化成処理などの保護表面処理が絶対に欠かせません。もし製品設計において耐食性の確保が極めて重要である場合は、鋳造後に表面処理で後追い補正をするのではなく、設計の初期段階から、銅の含有量を極限まで抑えマグネシウムを主添加元素としたA360(JIS相当:ADC3)のような低銅合金を選定することが、手戻りを防ぐ最も確実な調達指針となります。

耐圧性や気密性が求められるダイカスト部品には、どのアルミ合金を使用すべきですか?

油圧シリンダー、流体マニホールド、圧力容器など、内部に液体や気体を満たし高圧下で保持・制御する必要がある部品を設計・調達する場合は、A413(JIS相当:ADC1)を指定するのが最適です。本合金は、NADCAの5段階評価において、耐圧性および凝固時のひび割れ耐性の双方で最高評価の「レベル1」を獲得しています。さらに、金型内への充填性も「レベル1」であるため、肉厚の変化が激しく複雑な幾何構造であっても、実際の使用環境下で一切の漏れを許さない保安部品を安定して鋳造できます。技術的な裏付けとして、A413は11.0〜13.0%の高いシリコン(珪素)を含有する一方で、耐食性や湯流れに悪影響を与える銅(Cu)の含有量を最大1.0%以下に厳格に抑制しています。また、熱伝導率が121 W/mKと非常に高いため、高圧流体の作動熱を効率的に外部へ逃がす「放熱設計」と「耐圧性能」を高い次元で両立させることができます。ただし、高いシリコン含有量の代償として、切削加工時の扱いやすさや研磨・バフ仕上げ品質の評価は低いため、装飾性を重視する美しい外観仕上げには不向きです。外観の美しさよりも「圧力や流体を確実に閉じ込める」という機能性・安全性を最優先とする構造部品において、現在選択できるアルミ合金の中で最も信頼性の高い卓越した材質となります。

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